Attention
最初の二つは本編軸ですが、最後の話は現パロで趣味すぎる話&キャラの死にも触れているので見る人を選ぶと思いますのでご注意ください。
気に入らない、気に入らない。目の前で繰り広げられている全てが気に入らない。
「ほら、アラジン殿、これもありますよ」
「わー! ありがとう! これ好きなんだ」
同じ卓についたというのに、白龍は先ほどからアラジンの世話ばかりだ。今すぐこの場にどでかい魔法を打ち込みたい気分だ。あとでしこたまどやされるからやらないだけだ。
いつも忙しそうにしている白龍が珍しく休みだと言った。久しぶりに一緒に過ごせるのかと思いきや、アラジンが来ると言った。そして、朝からせっせと準備をすると厨房に入り浸っていた。
この国にアラジンが来るのは別に特別でもなんでもない。暗黒大陸の調査結果だとか、新しい魔法道具の調整だとか言って頻繁に顔を出している。アリババ商会の一員ではないのか。わざわざ白龍の手料理を振る舞ってやるほどの義理はないはずだ。
「おい」
「なんだ? ジュダルは食べないだろう」
白龍がアラジンに取り分けていたのは、野菜と肉をトマトだかで煮たものだと言った。白龍が作ったものとはいえ、野菜は食べたくない。
「……肉だけ食べる」
「そんなこと俺が許すと思うか?」
「美味しいよ、ジュダルくん」
パクパクと口にしていくアラジンの姿に面白くない気持ちは加速していく。お前はアリババのもんだろーが、クソチビ。ジュダルは、白龍が用意してくれた自分用の料理を口にする。何やら盛り上がっている二人の間に入っていける気がしなくて、ジュダルはひっそりとその部屋を後にした。
「それで出てきちゃったのか?」
「うるせーよ、オメーもあのチビの手綱ぐらい握っとけよ」
イライラとした口調で言えば、アリババは仕方がないというように笑った。アラジンと白龍が仲良くしていることに耐えきれずにやってきたのは、アリババの家だった。初めは、商会のほうへ行ったが姿が見えなかったので、こちらへやってきたのだ。
「だってアラジンと白龍って仲良いじゃん。誰と誰が仲良くしてようと別に俺はいいけど……」
「俺だって別にいいんだよ! あいつが気に入らないだけで!」
アラジンを手厚くもてなす白龍も、のこのこと煌帝国に顔を出すアラジンも何もかもが気に食わない。白龍の元に招かれたのが他の誰かだったらこんな風には思わない。同じような立場の人間だからイラついている。
「ジュダルさんは、白龍さんのことがお好きなんですね」
ジュダルが来たというと、モルジアナは驚いた顔をしたが、すぐにお茶を入れてくれた。何もしなくていいと言うアリババのことを叱り、甘いお菓子も出してくれた。夫婦でえらい違いだ。
「別に好きとかじゃねーし……」
白龍に対しての感情はどういうものがよく分からない。好きといえば、好きだ。何度も寝たこともあるが、それが恋愛感情かと問われれば首を傾げてしまう。ジュダルにとって、白龍は王として認めた相手で、今でも変わらず特別な人だ。ジュダルがマギでなくなったとはいえ、その事実だけは変わらない。あのくそみたいな世界で、白龍だけがジュダルの希望だった。
「お二人は分かり合えることも多いのではないでしょうか? 戦いの時にアリババさんとジュダルさんを亡くしたと思ったから」
「そんなの随分前の話だろ」
「そうですけど……でも、あの時は私もとても悲しかったです。そういう感情を共通できる相手は貴重ですよ」
モルジアナの話を聞いて、アリババはなぜか照れたように鼻を擦ってる。今のどこに照れる要素があったのか分からない。童貞を拗らせた男の感情などジュダルには理解できない。
「お前、失礼なこと考えてるだろ」
「考えてない」
「いーや、俺には分かるね、絶対に失礼なこと考えてた」
うるさい男だ。もう一家の主人になったのだから、どんと構えていればいいのに。どこまでも気に入らない奴だと思っていると、笑い声が聞こえてきた。
「……なんだよ、モルジアナ」
「いえ、なんだか……お二人も仲良しですね」
楽しそうに言う彼女にアリババと顔を見合わせた。彼はニンマリと笑っていたが、ジュダルは反対の顔をする。こんなやつと仲がいいと思われるなんて冗談じゃない。
「仲良しじゃない」
不満そうに言えば、モルジアナとアリババは楽しそうに笑った。アリババと次の暗黒大陸へ行く日程を話しあと、モルジアナとの関係を聞いて怒られた。ただ、夜の生活について少しばかり相談され、適当に答えたものを懸命にメモしていて引いた。そんなことは知らないモルジアナから花が育ったと見せてもらった。鉢に植えられた色とりどりの花の名前はジュダルには分からなかった。自分のイメージする花弁が開いているものではなく、蕾のようだった。この姿が、咲いているのだという。
「チューリップっていうんだそうです」
ここまで育ったということは、丁寧に手入れをされたのだろう。何本か持って帰ってくださいと言われ、赤い色のそれを包んで持たせてくれた。
そうやって相手をされているうちに気分もいくらか落ち着いてきた。そろそろアラジンも帰ってくる頃だろう。また来いよなんていうアリババのことを無視して、ジュダルは彼らの家を後にした。
移動してきたのは、お気に入りの木の上だ。白龍のところに戻らなかったのは、まだ夕方でアラジンがいるかもしれないと思ったからだった。なんだか顔を合わせたくなった。そのままぼうっとしていると、その下を仕事中だろうか。数人の女官たちが通り過ぎていった。
「今日、アラジン殿が来ていたのよ」
「そうだったの!」
きゃあきゃあと楽しそうに話をしている女たちは、ジュダルの存在に気づいていないようだった。
「白龍太上皇殿下と歩いていらして、もう眼福だったわ!」
「本当! 今日はいい日だったわ」
「えー! 羨ましい……お二人で歩いてると本当に絵になるのよねぇ」
うっとりとした声を出して、女たちは去っていった。絵になる? 白龍とアラジンが? ジュダルは考えたこともなかったが、二人の姿を思い描けば確かにそうかもしれないと感じた。
白龍は、一人で歩いていても絵になると思う。幼い頃から見た目は突出していた。成長すると、鍛えられた体躯に丁寧に作られた目鼻立ちは、どこにいても目立った。彼自身も整った容姿を自覚しているようだし、その顔を武器に外交を成功させてくることもあるくらいだ。そういったことは苦手そうなのに使えるものは使うという感覚は、練の男という感じでジュダルには好ましかった。
アラジンはどうだろう。出会った頃はチビのガキだったが、しばらく会わないうちに、ニョキニョキと身長が伸びていた。まだジュダルの方が背は高いが、年齢的には、彼の方が伸び代はあるかもしれない。小さな顔には、大きな目と鼻、口がバランスよく配置されていた。確かに絵になる気がしてきた。ジュダルより、よっぽど。
結局のところ自分は、アラジンよりも白龍の役に立てる自信がない。だから、あの二人を見ているのが嫌なのだ。それにジュダルがいなかった間、彼らはこの煌帝国で一緒に過ごし、逃亡生活を共にしていた。その間のことを聞いたことはない。何を言われるか分からなくて怖かった。
二人で世界を壊してやろうと息巻いていたころは、こんな不安を感じることはなかった。白龍を王に定め、マギとして力を奮っていた時は、これ以上ないほど幸せだった。平和な世の中になってしまったからいけない。そんなことを思っているのは、きっとこの世界でジュダルだけに違いない。
白龍は、王とマギという関係に未練を持ったりしないのだろう。ジュダルだけが、いつまでもあの頃に縋っている。あの時に、死んでしまえれば良かったのに。
今の世界でジュダルが白龍のためにできることなんて微々たるものだ。転送魔法陣の設置や点検をすること、暗黒大陸へ行くこと、あとは新しい魔法道具の開発に口出しすることくらい。アラジンと違って、魔法学校に通ったこともないし、マギでなくなった自分は魔力だってぐんと少なくなってしまった。白龍がいるからこの国にいるのになかなかうまくいかないものだ。いつの間にか日が暮れていた。少し肌寒く感じてようやく重い腰をあげて室内に入った。
自分の部屋に帰ろうかと思ったが、結局白龍の部屋まで来てしまった。いつもよりも重く感じる扉を開けて、足を踏み入れた。
白龍は、小難しそうな本を読んでいた。足音に反応したのかこちらを向いた。
「どこかへ行っていたのか」
「え、ああ」
アリババたちのところへ行っていたとはなんとなく言いづ らくて誤魔化してしまった。
「郁金香か、ちょうど咲く頃だな」
白龍が何を言っているのかわからなかった。視線が持っている花束に注がれているのに気が付く。そういう名前だったか。モルジアナは違う名前を読んでいた気がする。そのまま手渡せば、何も言わずに背の高い花瓶に活けてくれた。基本的に色のない白龍の部屋の中で、その赤色はとても目立って見えた。
「腹は減ってないか? 昼もあまり食べてなかっただろう」
「……えーと、まぁ」
なんだその返事と白龍が微笑む。なんだかいつもより雰囲気が柔らかい気がする。読んでいた本を片付けて、白龍は机の上に料理を用意してくれた。ジュダルの様子を見てか並べられたのは、数種類の点心だった。どれもジュダルの苦手とする食材は入っていなかった。食べ始めると腹が空いてきた気がして全て食べてしまった。
「なに、これ」
「お前、こういうの好きだろう」
食事を終えたジュダルの前に出されたのは、ガラス製の皿にのった桃色の食べ物だった。ふるりとしていて美味しそうだ。口に含むと桃の味が広がる。果物とゼリーのような部分の蕩けるような食感は、確かにジュダルの好みだった。
「昼に食べようと思っていたのに姿が見えなくなってしまったから」
「ああ……」
アラジンと一緒に食べていたらこんなに美味しいと思えなかったかもしれない。一人で食べることができてよかった。
「いい桃が手に入ったからな、そのまま食べてもよかったんだが……」
白龍は、たまたま料理本に載っていたから気になって作ったと言った。桃を潰して、冷やして固める。作り方自体は、簡単だが食べられるようになるまでには、時間がかかるということだった。
「え、お前、朝からこれ作ってたの?」
「そうだが……」
「アラジンのは?」
「アラジン殿?」
何を作るか指示したり、最終的に手を加えたりしたが、基本的には宮中の料理人に作ってもらったと言われた。ジュダルにはずっと入り浸っているように見えたが、桃のババロア(というらしい)を冷やし終えたら、ジュダルがいないから探していたと言われた。
「全然見かけないし、昼に誘ったと思ったらどこかに行ってしまうし、どうしたんだ?」
なんだ。
ジュダルは、こんな単純なことで自分の機嫌が向上していることに気づいて恥ずかしくなってくる。一人で考えを巡らせて落ち込んで馬鹿みたいだ。アラジンに感じていることは、日頃からよく思っていることだ。どうにも劣等感みたいなものは消せないし、これからも抱き続けると思う。
それでも、白龍が自分に心を傾けていてくれたということだけでどうでも良くなってくるものだから我ながら現金なものだ。
「あー」
「なんだ?」
「……ババロア、おかわりある?」
「ああ」
白龍は、そういうと空になった容器を下げて新しいものを持ってきてくれた。先ほどよりもよっぽど美味しそうに見える。
これから先も、きっとジュダルは白龍の近くにいることの意味を考えてしまう。マギとして王と共に歩んでいくのが、ジュダルのこれまでの価値観だった。それが覆されてしまったこの世の中で、いまだにどう立ち振る舞ったらいいのか分からない。何を軸に自分を保っていけばいいのか確固たる自信がない。
ただ、白龍が変わらずに接してくれるのであれば、ジュダルはここで生きていくことができる。それだけで、きっとジュダルは、踏ん張って生きていくことができる。ひんやりとしたババロアを口にしながら改めて思った。